【サッカー】恩返しの思いを胸に“二兎を追う”…ジュビロ磐田MF山田大記の新たな挑戦

ベンチ脇で戦況を見守っていた19番に声が掛かる。「待ってました!」と言わんばかりに勢いよくビブスを脱ぎ、待ちかねていた出番に向けて準備を整え、名波浩監督の下へ急いだ。

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ブンデスリーガ2部のカールスルーエから約3年ぶりにジュビロ磐田へ復帰した山田大記の古巣再デビュー戦。エコパスタジアムに2万3,783人を集めた浦和レッズとの明治安田生命J1リーグ第26節の84分、中村俊輔に代わってピッチへ送り込まれると、スタンドからは大きな拍手が送られた。

■愛する古巣での新たなスタート

待ちわびていた新たなスタートだった。名波監督から準備の指示が出てから待ち時間が長く、「ウズウズしていた」という山田。チームが1-1に追いつかれた状態での投入になったこともあり、「ここで取ったら……」と考えてワクワクしながらピッチに入ったという。

出場機会が短く、狙いどおりの結果を出すことは叶わなかったが、積極的な姿勢は明確に見せた。87分には松浦拓弥川辺駿とのダイレクトプレーから強烈に右足を振り抜いてミドルシュートを狙う。松浦が「山田が入って距離感が良くなった。ああいうプレーをもう少しゴールの近くでやれたら、もっと脅威になれる」と今後への手応えを語れば、山田自身も「ああいう関係性をチームとしても、90分を通してもっと出していきたい」と前を向いた。

決意の古巣復帰だった。磐田のアカデミーで10年間育ててもらい、藤枝東高から明治大を経てトップチームに加入。プロ1年目から10番を背負って活躍し、2013年には東アジアカップで日本代表デビューを飾った。ブラジル・ワールドカップ後の2014年夏に渡独し、ブンデスリーガ2部のカールスルーエに移籍。3シーズンで88試合10得点の成績を残したが、2016-17シーズンの低迷で3部降格が決定し、今年5月に自身のブログで退団を明言。6月以降は磐田や常葉大浜松に練習参加して今後の可能性を模索していた。

6月の練習参加後、後半戦の躍進を見据えたクラブ側は早期合流を希望。だが、まだ山田の胸中に海外への思いが強かったことを受け、服部年宏強化部長は「自分の中でしっかりと線が引けたら来てほしい」と伝えて決断を待った。そして山田は国内外のクラブから届いたオファーの中から、自分の年齢や立ち位置、自分のチャレンジに値するものを考えた中で、「ジュビロに帰ることが一番」と決めた。登録期限ギリギリの復帰発表だった。

「ヨーロッパで3年間プレーして、大きな成功を収められたわけではない。出ていく時にも厳しいチーム状況の中で本当に悩んだけど、クラブに迷惑を掛けながらサッカー選手として自分の憧れや夢を優先してヨーロッパに渡らせてもらった。こうして温かく迎え入れてもらえたことはうれしかったですけど、こういう形で帰ってきてしまっていいのかという思いもありました。結果的にこのタイミングまで加入が遅れてしまい、また迷惑を掛けてしまった。自分を育ててもらったジュビロには本当に愛着があるし、またジュビロでプレーできることをうれしく思っています。今まで育ててもらったり、迷惑をかけた部分を少しずつプレーで返していけたらと思っています」

今シーズン、名波監督に率いられたチームはJ1で上位を視野に入れて戦うところまでレベルアップ。戦術面やメンバーも固定されつつある状況になってきた。もちろんかつて中心選手としてプレーした山田にとっても定位置は約束されておらず、しばらくの間はジョーカーとしての起用が濃厚と見られる。

名波監督からは「いろいろなポジションで考えている」と言われており、現時点では2シャドーを中心に1トップやサイドMFなど、状況に応じて異なる役割を与えられる可能性が高い。山田自身はドイツでずっとプレーしていたボランチに入ることも想定している。実際、浦和戦で3-6-1システムを採用したチームは、同点後に山田を投入した際に4-2-3-1へ変更。複数ポジションをこなせる選手の加入で、チームとして戦い方の幅が広がることも期待できそうだ。

「今はバックアップの状態ですけど、いろいろなポジションをやれるので、チーム内の競争も巻き起こせるはず。それがチームにとって刺激になるとも思う。それにドイツと比べるとスピード感が全然違う。向こうでの速さやプレッシャーのキツさに慣れている部分もあるので、自分の感じている違いをチーム全体のプラスにつなげていきたい。自分の考えもどんどん伝えていきたいし、いい化学反応を起こしてコミュニケーションを取りながら、チームとして一つ上のレベルに行けたら」